股関節外科医のパティシエ留学記

市立秋田総合病院整形外科 藤井昌

Bonjour! 市立秋田総合病院の藤井昌と申します。私は秋田大学整形外科の医員として勤務していた2019年11月から、海外留学の機会をいただきました。同門の上司で、股関節の指導をしていただいていた木島泰明先生がフランスに留学されていたこともあり、前方アプローチによるTHAの研鑽を積んでおりましたので、現地で源流の手術を学ぶことになりました。多忙な業務の中での渡仏準備は困難を極め、留学先とのやりとりやビザ取得などについて木島先生ご指導のもと、エージェントと何度もやりとりしながら手続きを進めていきました。その中で、順天堂大学の本間康弘先生や済生会横浜市南部病院の石田崇先生の多大なるご協力をいただき、なんとかパリにたどり着くことができました。最初に訪れたのは、HENRI MONDOR HOSPITALでした。ここでは股関節外科というよりは、外来や整形外科一般の手術を見学しました。医療制度の違いや手術手洗いした時のコミュニケーションなどに戸惑いながら、病院のレストランでランチにありつくのも必死な日々を過ごしました。HENRI MONDORL HOSPITALでの研修終了後の日程は、実はしっかり決まらないまま渡仏してしまったのですが、運よくClinique du SportとClinique Aragoにお世話になることができました。そこでは偶然同時期に留学されていた、慶應義塾大学の藤江厚廣先生にお会いすることができ、なにもつてがないまま見学に行った私に対して、交代で手術に入ろうとの提案をいただき、本当に良くしていただきました。Dr. Frédéric LAUDEとDr. Luc KERBOULLの手術を勉強できたことは、私の股関節外科医としてのキャリアに大きなプラスとなりました。さらにここでご紹介した本間先生、石田先生、藤江先生はいずれも他学ではありますがバスケットボール部の先輩で、帰国後も引き続き大変お世話になっております。バスケットボールを続けてきて、これほど良かったと思うことはありません。この場をお借りして深く御礼申し上げます。

前置きが長くなってしまいましたが、私のパリ留学における股関節修行は実はサブテーマで、本当の目的は一流のパティシエを目指すためのものでした。というのも、私の実家は秋田県で創業100年を超える和洋菓子店 (株式会社かおる堂) を営んでおり、美食の都パリのエッセンスを持ち帰ることに大きな情熱を注いでおりました (実際、フランス大使館に提出するビザ取得動機にも、長々とそのように書きました。見事に却下されましたが・・・)。医師としてパリに留学した中では、おそらく最も多くのパティスリーを訪問したのではないかと自負しています。そして今回、THAや骨切りなどのご指導でお世話になっている、静岡赤十字病院の西脇徹先生から、これからパリに留学する先生に有用な情報を提供してくださいとのお話をいただきましたので、留学記と名付けるほど大した内容ではありませんが、訪問したパティスリーのお話を報告させていただきたいと思います (役に立つかは甚だ疑問ですが・・・)。

私は5区のQuartier latinにあるアパルトマンに住んでおりました。家賃は高めでしたが、学生街ということもあり比較的治安が良く、夜間もたまに学生が騒いでいる程度でした。街を歩くと至る所にブーランジェリー (パン屋) やパティスリーが並んでおり、ウィンドウ越しに眺めるだけでも楽しくなります (Fig.1 a, b)。

Fig.1a
Fig.1b

小さくても古くから続くお店がたくさんあり、フランスの文化として根付いているのだなあと感じます。私は全くフランス語ができませんが、お店に入る時に心掛けたことは、英語を話したくなる気持ちをグッと抑えて、最低限、最初と最後はフランス語でコミュニケーションをとるということでした。まずはアイコンタクトと共にbonjour!何も買わなくて気まずく帰る時でもmerci, au revoir!数字くらいはフランス語で伝えられますよね。あとは会計の時、それまでもじもじしていたのに、キリッとc’est tout (以上です)、donnez-moi un sac, s’il vous plaît (袋をください) などと言うと、店員さんのプチ笑いが起こることがありお勧めです。

Maison GEROGES LARNICOLはメトロ4号線のOdeon駅近く、Saint-Germain大通りにあるチョコレートが有名なパティスリーです。動物やスポーツのボールなどのたくさんのチョコレートアートに目を惹かれますが、Bretagne地方発祥のクイニーアマンというお菓子が有名です。チョコレートも量り売りであまり高くないので、お土産にもいいかもしれません (Fig.2)。

Fig. 2

次にご紹介するのはご存じ、PIERRE HERME PARISです。市内には何店舗かありますが、6区のcaféが併設されている店舗に行きました。秋田のような地方都市ではなかなか食べる機会もありませんので、もちろんオーダーはIspahan。見た目もさることながら、ローズの風味、ライチの甘み、フランボワーズの酸味が織りなすハーモニーが素晴らしく、パリで生活する嬉しさをかみ締めました (Fig. 3)。Champs-Elysees通りにはコスメブランドのL’Occitaneとコラボした店舗もあります。ここのcaféのカウンター席ではパティシエがデザートを作る様子が見られますので、その技を盗みたい方にはうってつけです (Fig. 4)。天気が良ければマカロンをテイクアウトしてテラス席で食べるのもいいですね。

Fig.3
Fig.4

Champs-Elysees通りにはパリ4大老舗caféの1つと言われるFouqut’sがあります。映画にもよく使われていたそうで、赤い屋根が目立つためすぐに見つけられると思います (Fig. 5)。シャンパンとエクレアをいただきましたが、それだけで結構な値段です。雰囲気を楽しみたい方にはお勧めです。Fouqut’sのすぐ近くには、日本でも有名なLADUREEがあります。外観、内装が豪華で女性に人気がありそうな店構えですが、観光客が多く行列ができることも多いようです (Fig. 6)。

Fig.5
Fig.6

ヨーロッパ最大級のデパート、Galeries Lafayetteの中には、こちらもお馴染みのANGELINAがあります。買い物のついでに寄りやすい場所ですが、意外に穴場のようです。お約束のモンブランをいただきますが、とにかく甘くでかいです。層構造になっていますが、甘いクリームの中に甘いメレンゲという感じで、お供にエスプレッソは必須という感じです (Fig. 7)。どうやらフランスの栗は日本のものより濃厚な味わいのようです。おいしいですが完食後はしばらくいいかな、という気持ちになります。

Fig.7

私が最も行ってみたかったパティスリーは、パリ最古と言われるStohrerです。地下鉄駅で最も大きなChatelet-Les Hallesから歩いて数分の商店街エリアにあります。この店、創業はなんと1730年、日本では享保の大飢饉が起こっている頃に、フランス人はお菓子を食べていたのか!と思うと衝撃的です。フランス菓子の1つとして有名なBaba au Rhum (ババオラム:菓子パンに洋酒入りのシロップをつけこんだもの) が目当てで、私の実家の店でもSavarin (サバラン:ババとの違いは現代では形のみのようです) という名前で販売しておりました。肝心な味は、かなり洋酒が効いており、少なくともお酒が苦手な方には向かないかもしれません。食感は良く言えばしっとり、言葉を選ばず言えばびしょびしょで、好みがわかれるところかもしれません。とってもおしゃれな包装にいれて持ち帰ったのですが、石畳を走る自転車の前カゴのなかで箱が暴れてしまい、アパルトマンに着くころにはクリームが爆発しておりました (Fig. 8 a-c)。

Fig.8a
Fig.8b
Fig.8c

Lille発祥のMeertも1761年創業の老舗です。4区のLe Marais (マレ地区) というオシャレナなエリアにある小さなお店です。ここの人気商品はゴーフルですが、日本で食べる硬い食感のものとは一線を画すお菓子です。しっとりした生地の間にややシャリシャリしたクリームが挟まっています。いろいろなフレーバーがある上、1枚から購入可能なので、食べ比べて好みの一枚を探してみてください (Fig. 9)。

Fig.9

Stohrerと同じくらい興味があったのが、Place de la Concorde (コンコルド広場) 近くにあるTORAYA Parisです (Fig. 10)。日本の超有名羊羹がパリでどのように受け入れられているのか興味津々でしたが、夕方頃に訪れると超満員!parisien、parisienneが抹茶片手に羊羹をつついている姿には、和菓子の大きな可能性を感じました。パリ店オリジナルの商品も存在しますので、お土産にも喜ばれることと思います。日本つながりでいくと、日本最大の製パン企業、Yamazakiのパティスリーも出店しています。フランスではいわゆる日本の苺ショートケーキを見る機会は極めて稀です。もし日本の味が恋しくなったら、YamazakiのSALON DE THEに行ってみるのがいいかもしれません。

Fig.10

Saint-Germain-des-Prés (サンジェルマン・デ・プレ) には、M.O.F. (国家最優秀職人賞) を受賞した実力派パティシエのARNAUD LARHERがあります。ショーケース内はどれも鮮やかで、見た目も楽しむフランス菓子を象徴するようなものばかりでした。ここで購入したのはサントノレ (小さなシューを重ねてクリームでまとめたもの) とフランボワーズのケーキです (Fig. 11)。1つのケーキの中でも色や食感の違いを堪能できる素晴らしいお菓子でした。

Fig.11

最後は、実力派日本人パティシエが手掛けるMORI YOSHIDAです。ナポレオンの墓があることで有名なLes Invalidesの前に広がる芝生広場に立ち並ぶ、高級住宅街の中に店があります。店構えもスタイリッシュで、ショーケース内には芸術的なお菓子が並んでいますが、発色しすぎていないところに日本人ならではの奥ゆかしさも感じます。人気のお菓子はモンブラン、ベージュ、M (エム) などで、重厚な見た目ですが軽く食べられる絶品です。4種類ほど持ち帰りましたが、またしても石畳にやられてしまいました (Fig. 12 a, b 学習しない・・・)。

Fig.12a
Fig.12b

この他にも美味しくてカラフルなプチシュー (Fig. 13) や絶品のタルト・シトロンなど、紹介すればキリがありませんが、誌面の都合でこれくらいにさせていただきます。

Fig.13

ポイントをまとめますと、

・挨拶はフランス語で
・お菓子はかなり甘いものが多く、エスプレッソ必須
・自転車×石畳に注意
・フランス菓子の味だけではなく、見た目や食感、さまざまな素材も楽しんでみてください

です。
皆様のフランスでのご滞在が充実したものになるようお祈りしています。Bon voyage!
(2019年末時点での情報になります。ご了承ください。)

Bogdan の Bon voyage! ~Vol.1 Provence~

Propeck BOGDAN

以下の内容をPDFで表示するにはこちら (PDF形式 2.3MB)

 プロヴァンス。
 ここは私にとって忘れられない思い出に満ちた場所であり、フランスやヨーロッパの行楽客のランデヴ一ポイントでもあります。海、谷、山が連なる風景が、古代、ローマ時代、中世からの現代までの歴史を結びつけます。そのライフスタイルは、人生の甘さがキーワードで、地中海と韻を踏む美食が盛り立てます。本稿では、夢を創造し、多くのアーテイスト、旅行者、夢想家に刺激を与えてきた私の故郷を紹介します。日常を忘れて、静けさに向かって一緒に旅しましょう。

 パリから遠く離れた南仏に位置するプロヴァンスでは、どこまでも続く美しい風景、古くから存在する村々、歴史的建造物を体感できます。まずどこに滞在するか。最初はエクサンプロヴァンス、私の故郷をお勧めします(写真1)。マルセイユ空港またはエクサンプロヴァンスTGV駅からアクセスできます。旧市街には、中心の歩行者天国に多くのホテルがあり、古い路地やプロヴァンス有数のマルシェを楽しめます。もちろん地元の美食を味わうことができるカフェやレストランもたくさんあります。

●写真1 エクサンプロヴァンスとサントビクトワール山
●写真2 鷹の巣村ゴルド
●写真3 セナンク修道院とラベンダー畑

 エクサンプロヴァンスは、エクスカーションの起点として最適です。北は鷹の巣村ゴルド、ルールマラン、ラコステ、ボニューなど、フランスで最も美しい村があるリュベロン自然公園があります (写真2,3)。南には地中海が広がり、カシやマルセイユなど海岸沿いの村や街を楽しめます。ヨーロッパで最も美しい入り江や崖(カランク)を絶景ポイントから見下ろしたり、ボートでカランククルーズを楽しんだりすることもできます(写真4,5)。西は、アルルやポンデュガールなど2000年前のローマ時代の遺跡が点在し、ゴッホが描いた名所にも立ち寄れます(写真6)。東は夏がおすすめで、広大なラベンダー畑はもちろんのこと、ヨーロッパ最大のヴェルドン渓谷とトルコブルーに輝くサントクロワ湖の美しさに圧倒されることでしょう (写真7)。

●写真4 カシのカランク
●写真5 マルセイユの港
●写真6 アルル
●写真7 サントクロワ湖

 プロヴァンスの人々と友達になるのはとても簡単です。暖かくて日差しの強い気候のせいか、お互いにキスしたり、ハグしたり、人懐っこいラテン気質を持っているからです。もし恥ずかしがり屋でなければ、プロヴァンスの人々の温かさを発見してみてください。プロヴァンスの言語はもちろんフランス語です。エクサンプロヴァンスは学生の街で、全国から人が集まるため、アクセントは強くありません。一方マルセイユなどの港町は、イタリア語を彷彿とさせるアクセントがあり、歌うように喋るといわれています。よく日本の大阪弁に例えられます。私は大阪在住ですが、大阪弁は喋れません。でもマルセイユのアクセントはなんぼでも真似できます。またこの地域の言語として、何世代も継承されてきましたが、時間とともに失われつつあるオクシタンもあります。残念ながら、プロヴァンスで日本語を話す人はほとんどいません。英語は通じることが多いです。

 ご家族やご友人へのお土産には、エクサンプロヴァンス名物のカリッソン、AOPのオリーブオイル、ラベンダーのサシェをお忘れなく。セミはこの地域では幸運をもたらすと言われ、セミがモチーフになったお土産も定番です。この地域を代表するワインは、コート・デュ・ローヌで、グルナッシュとシラーを中心に構成されたパワフルで力強い赤ワインです。また1970年代、地中海に面したカシで、最初のロゼAOCが作られました。アペリティフとして心地よい香りを与えるロゼは、ブイヤベースとの相性も抜群です。フランス人にとって、よく冷えたロゼは夏の飲み物、ヴァカンスを想わせるワインなのです。マルセイユではパスティスというアニス風味のリキュールも有名です。夕方になると、パスティス片手にペタンクに興じる現地の人を見かけます。これぞプロヴァンスの風物詩?

 さて、プロヴァンスへの空想旅行はいかがでしたか?いつかプロヴァンスの青空の下で、一緒にロゼワインを飲める日を夢見て。
 Bon voyage!!!

[ミニ情報]
■観光地訪問には、ガイド付きの半日または1日ツアーをお勧めします。英語、日本語もOKです。
http://www.rendezvousprovence.com/en/excursions1_en.html
■エクサンプロヴァンスのダウンタウンの情報は、観光案内所へ
https://www.aixenprovencetourism.com/ja/
■おすすめレストラン (美昧しくてリーズナブル)
エクサンプロヴァンス:「Le Zinc d’Hugo」お肉のグリルが最高
エクサンプロヴァンス:「Le petit Verdot」地元の食材の料理とワイン
カシ:「Chez Gibert」ブイヤベースが絶品
レ・ボー・ド・プロヴァンス:「Bistro la Reine Jeanne」豊富なプロヴァンス料理

■Propeck BOGDAN
フランス・エクサンプロヴァンス出身。
2012年まで、南仏で外国人向けのツアーガイドを行なっていた。
2018年~2019年NHK Eテレ「旅するフランス語」に、女優黒木華さんの旅のパートナーとして出演し、ボグダンさんの愛称で親しまれた。
現在、大阪でフランス家庭料理のケータリングサービスと料理教室を中心に活動している。

フランス手術器械のおなまえ

滋賀医科大学 整形外科学講座 前田 勉

以下の内容をPDFで表示するにはこちら (PDF形式 1.2MB)

 このコーナーはフランスの手術室に入ることになった若き日本人整形外科医のご活躍をお助けするために、手術器械の名前を知ってもらおうというのが目的です。
 今回の情報はホームページ上で公開しており更新が可能です。訂正や追加情報を随時募集しています。是非、写真 (絵でも結構です) をつけていただいて日仏整形外科学会事務局にお教えください。つぎの交換研修生のために情報をつなぎましょう。

【Compresse】

 手術に参加することになって、はじめに活躍できる場面はガーゼで拭くことではないでしょうか。辞書で引くと ≪ gaze ≫ という言葉もありますが、これは単なる薄い生地のことをさしますので、フランスの手術室では一般的でないようです。オペ室で使うガーゼは、ガーゼをまとめて ≪ compresser ≫ したものだから ≪ compresse ≫ と呼ぶようです。

【Farabeuf】

 Dr Louis Hubert Farabeuf (1841-1910) のお名前に由来をもつ筋鉤です。ファラブはフランス医学に衛生学を導入したと言われる外科医で、手術器具を他にもいくつか考案しているようです。正式名称は ≪ écarteur de Farabeuf ≫ で、フランスでは一般的な筋鉤のようです。
 ベックマン開創器は ≪ (écarteur de) Beckmann ≫ で、ホーマンレトラクターは ≪ (écarteur de) Hohmann ≫ または ≪ contre coudé ≫ です。

【CiseauとCiseaux】

 単数形で「のみ」・複数形で「はさみ」になりますが音は同じです。
 「スィゾ!」では、どちらのことなのか分かりませんから、手術の流れから判断するしかありません。正しく指定するには ≪ ciseau à frapper ≫ とか ≪ ciseaux mayo ≫ です。

【pince=挟む道具】

 ≪ Pince-gouge ≫ はリウエル (gouge=丸鑿) で、個人的には好きな響きの音です。
 コッヘルは ≪ Pince Kocher ≫ です。挟むタイプの道具は「パンス~~」です。

【Marteau】

 ハンマーです。(岡崎良紀先生より情報を頂戴しました。ありがとうございます。)

※追記
 手術室に入ったら、多分はじめに聞かれるのは手袋のサイズでしょう。
 ≪ Quelle est votre taille de gants? ≫
 ≪ Sept et demi, s’il vous plaît! ≫
 てな感じで、つかみはOKではないでしょうか?
 それから、オペナース・麻酔ナース達にお土産を持っていくとすごく好感度がアップします。お土産は日本以上にポイントが高いような気がしました。日本から持っていくよりも地元の ≪ chocolaterie ≫ で詰め合わせを買うほうが選ぶのが簡単です。ご参考までに・・・

深遠なるフランス式サンドイッチの世界 ~Bordeaux編~

大阪医科大学 整形外科学教室 藤城 高志

以下の内容をPDFで表示するにはこちら (PDF形式 3.8MB)

 フランスは美食の国として有名で、色々な美味しい食べ物がありますが、サンドイッチに勝るものはありません。

 我々日本人のサンドイッチのイメージは、食パンに色々な具材を挟み、綺麗に三角形、もしくは長方形に切り揃えられたイギリス式のものだろうと思います。一方フランス式サンドイッチは、フランスパン (バゲット) に切れ目を入れ、その中にハム、チーズ、野菜などが雑然と挟んだものです。私がボルドーへ留学した初期の頃、インターンルームに食べかけのサンドイッチがころがっているのをよく目にし、“あんなものは絶対に食うまい” と思っていました。しかし、小腹が空いた時、旅行に出かける際にふらっと立ち寄った Boulangerie (パン屋) で食べているうちに、自分達の生活になくてはならないものになってくると同時に、“なんという奥深い食べ物か” ということが次第にわかってきます。恐らく、フランスのサンドイッチは、日本のおにぎりと非常に似た存在なんだろうと思います。

 このフランス式サンドイッチは、街の Boulangerie に行けば必ず出会うことができます。基となるバゲットはBoulangerie によって違うのはもちろんのこと、中に挟む具材もそれぞれであり、無数の選択肢があります。それ故、“今日はこんなサンドイッチを食べたい”、“今日はサンドイッチでこんな気分になりたい” という我々のわがままで多様な要望にも、フランス式サンドイッチはいつでも答えてくれます。その際にまず重要となるのは、値段、大きさ (どれくらい満腹になるか)、中に挟まれた具材でしょう。ただし、ことはそれほど単純ではありません。フランス式サンドイッチは、小さいものでも20cm程度、大きなものになると30cmのバゲットを基本とするため、“一口目の美味しさ” はもちろんのこと、それを飽きずに食べさせる “持続力” も非常に大事となってきます。さらに、中脳皮質系ドーパミン神経を刺激しまくる “今日、これ、絶対食べたい” と思わせる見た目の美しさ (“風貌” と言います) も、至極のサンドイッチには必ず備わっている要素です。

 この紀行文では、私たち家族がボルドー留学中に愛してやまなかった珠玉のサンドイッチ5選を紹介します。

Sandwich, 4.0£ @Au Périn Moissagais
(72 Cours de la Martinique, 33300 Bordeaux)

 Au Périn Moissagais はボルドーの北部郊外にあります。重厚な石作りのいかにも “ヨーロッパ調” な住宅街にひっそりと佇むこの Boulangerie から紹介するのは、その名も “Sandwich”。具材はハムとチーズで、これは日本のおにぎりでいう “梅” にあたるのではないかと思います。

 バケットは “端っこが一番美味しい” と皆が言いますが、その両端が切り落とされた無骨な風貌。これまたワイルドなルックスのハムとエメンターラー。一見身構えますが、見た目とは裏腹に非常に優しく懐かし味わい (もちろん、こういうものを昔食べていた訳ではありません) の “山のフドウ” 的サンドイッチ。硬いバケットの端っこが省略されることで、最初の一口目からスムーズにサンドイッチ中枢部へ迷い込むことができます。そうするとなるほど、バケットの端っこがないことは、この視覚的なワイルドさと味覚的な郷愁を同時に演出するための工夫なんだなと理解できます。そしてもうひとつこのサンドイッチを特別なものにしているのは、なかなか出会えないという Premium Feeling。“今日はあるやん!” という喜びも、フランス式サンドイッチを楽しむ醍醐味の一つです。

Thon Crudités, 4.5£ @Maison Lamour
(157 Rue Judaïque, 33000 Bordeaux)

 Maison Lamour はボルドーの中心地を取り囲む住宅街 “Old Bordeaux Town” にあり、目の前には市民プール “piscine judaique” があります。この Boulangerie はフランス国内のテレビ番組でのバケット・コンテストで優勝した経験があり、小さな店ながらもいつも繁盛しています。

 賞を受賞しただけあって、とにかくバケットがうまい!この小麦香るバケットは、日本では絶対に食べられません。ここでは色々なサンドイッチを試しましたが、ハム、チキンなどではこの芳醇なバケットと対峙することは難しく、ツナがベストな具材であると考えます。決して気を衒わない味と風貌の燻銀サンドイッチ。しかし、もういつまでも延々と食べ続けていられるような、麻薬的危うさを兼ね備えています。

Poulet Curry, 4.5£ @Pomponette
(2 Rue Répond, 33000 Bordeaux)

 この Boulangerie も Old Bordeaux Town にあり、息子が通っていた小学校からの帰り道にありました。隣は高校で、まさにその購買部的な Boulangerie とも言えましょう。ここでは豊富な種類のサンドイッチを提供していますが、その中で紹介するのはカレー味の “Poulet Curry”。カレー味のサンドイッチはフランスでも非常にレアで、滅多にお目にかかることはできません。

 とにかく大きい、大人でも半分食べれば満腹になります。さすが、フランスの高校生の胃袋を支えるサンドイッチです。チキン、トマト、ルッコラなどの具材も十分な量で、これらがマイルドなカレー味にまとめられていますが、このサンドイッチの “肝” は紫玉ねぎのスライスです。この辛味が、巨大なカレー風味のサンドイッチを大人な味わいにし、さらに最後まで飽きずに食べさせる絶妙なアクセントとなっています。ランチはもちろんのこと、ワインのアテとしても楽しめる、非常に守備範囲の広い変わり種サンドイッチです。

Jambon Crudités, 4.5£ @Laurent Lachenalt
(101 Avenue Jean Jaurès, 33600 Pessac)

 Laurent Lachenalt はボルドーの隣町のペサックにあり、ゆったりとしたイートインスペースがあります。ボルドー留学中、“毎週土曜の昼はこの店でサンドイッチ” というのが我々家族のルーチンでした。この店は Boulangerie というよりはカフェの趣で、ケーキなどのスイーツが店のメインのショーケースに所狭しと並んでいますが、店の奥まった場所にあるこじんまりとしたケースの中に至高のサンドイッチ “Jambon Crudités” は眠っています。

 とにかく、紐で縛られたバケットから大きくはみ出したハムとチラつくスライスゆで卵。この妖艶なルックスにやられて、この店でこの “Jambon Crudités” 以外を食べたことはほとんどありません。バケット、具材のどれもが非常に素朴な味わいであるものの、これらが三位一体となった時に醸し出す目眩く華やかな味わい。(多分) 子供から大人まで、皆が大好きな味。私たち家族がボルドー滞在中に最も食べた癒し系サンドイッチです。

Le Fermier, 3.5£ @Elgoyhen
(44, 46 Rue Grateloup, 33000 Bordeaux)

 最後にご紹介するのは、Elgoyhen のサンドイッチ。この Boulangerie はトラムB線 Bergonie 駅前、ボルドー大学留学生センターの隣にあります。比較的新しい建物で、いかにも “街のパン屋” という外観で、オーソドックスなサンドイッチが並びますが、ここで食すべきは “Le Fermie”、日本語で “農場” を意味します。

 中の具材はチキン、レタス、トマトというフランス式サンドイッチで非常にポピュラーなもので、これはおそらく日本のおにぎりでいう “おかか” 的なものだろうと推察されます。ポイントは雑に塗られたマスタード。次の一口はマスタードパートなのか、そうじゃないのか、と思うだけで、どんどん食べ進めていってしまいます。もしこのマスタード分布を計算してやっているなら、フランスは本当に恐るべき国です。カリカリに焼かれたバゲットとしっとりした具材の釣り合いが絶妙であり、“こんな単純な食べ物がどうしてかこんなにうまいのか” という思いから、必ず “なんでや、なんでや” と禅問答的トランス状態に陥りながら食すことになります。われわれ家族が絶賛するボルドーのミラクルサンドイッチです。

 日本にも美味しいものはたくさんありますが、フランスの“美味しい”はそれと似て非なるものです。しかし、異国の人間ですら “美味しい!” と虜にしてしまう、そして5£以下で食べることのできるフランス式サンドイッチは、“フランス美食” の究極のかたちと言っても過言ではありません。まだ自分の知らない奇跡のサンドイッチがフランスに眠っていると思うと、ワクワクが止まりません。皆様もフランスを訪れた際は、是非お気に入りのサンドイッチを見つけてください。

ワインエキスパート清の合格体験記 ~2020年7月から10月にかけての濃いめにソーヴィニオンな体験~

旭川荘療育・医療センター (岡山) 青木 清

この記事をPDF形式で読むにはこちら (PDF形式 7.0MB)。

はじめに

 皆さん、Bonjour!!
 All of you know the「ソムリエ」, however, how about the「ワインエキスパート」?
 私は、生まれてから約30年間ワインを飲む機会がほとんどなかった。しかし、1998年からフランス政府給費留学生として1年間生活した際に、少しずつワインを飲む機会が増えた。同時期に留学していた三重のDr.山川と一緒に、ポール・ボキューズなどの三ッ星レストランを多数チャレンジした。それぞれのお店のおすすめの白ワインと赤ワインを1本ずつ飲んだことが多かったが、その時には品種はほとんど分かっていなかった。
 その後、Dr.山川がつないで下さった縁で、岡山県の女性 (Noriko) と2002年に結婚した時の引き出物は、「ブルゴーニュワイン+ブルゴーニュワイングラスペア」であった。帰国後、ピノ・ノワールの色彩&香りに魅了されていた私に、ボルドーワインの濃いめにソーヴィニヨンな世界を教えてくれたのは、私の「deeply close friend」の2人である (写真1)。以後、私の人生におけるワインは、「赤」デミック・トーク (bien sur, academic talk!!!) が中心であった。
  2020年6月に、私が「山内逸郎記念賞」という名誉ある賞をいただいた際に、Dr.岡が祝賀会を少人数で企画してくれた。2020年7月に、後にミシュランガイド岡山で星を獲得した「はすのみ (ヌーベルシノワ)」で「POUILLY FUME 2012 (写真2)」というワインを飲んでも、それが香りに特徴のあるソーヴィニョン・ブランという品種であることをよく認識できていなかった。

●写真1 左から筆者、Dr.岡、Kazuo (藤原一夫) (2019年、あるワイン会にて)
●写真2 Sauvignion Blanc

 そんな私が、「ワインエキスパート」という資格の存在を知り、2020年7月から10月にかけて集中して学び、そして合格した。本稿では、その軌跡、今まで経験したことのなかったワインのdeepな世界の一端、そして、その体験から感じた新しい『自分』や『生き方』を具体的に紹介したい。

【ワインエキスパートとは】

 日本ソムリエ協会のホームページによると、ワインエキスパートについて以下のような説明がある。
<ワインエキスパート>
◆酒類、飲料、食全般の専門的知識、テイスティング能力を有する方
◆職種、経験は不問
◆ソムリエ職種に就かれていて、受験に必要な経験年数に満たない方
 ソムリエとワインエキスパートの大きな違いは、飲食サービスなどでの勤務経験の有無である。

【受験のきっかけ】

 前述の祝賀会で「ワインエキスパート」という資格があることを知ったが、いつも通り、その日のうちに記憶から抜けていた。一緒に話を聞いていた Noriko から、翌日に「今年は時間があるから受けてみたら!」と提案され、7月14日 (締め切りの前日) に、申し込みをした。

【参考図書・サイト・映画】

1) 日本ソムリエ協会、2020日本ソムリエ協会 教本
J.S.A.ソムリエ J.S.A.ワインエキスパート (医師国家試験の「イヤーノート」や昔の電話帳を彷彿させる750ページにもわたる超分厚い百科事典)
2)杉山明日香、受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座 ワイン地図帳付き〈2020年度版〉、Little More (「ポイント」「出題例」「Check & Repeat」などが最新情報をもとに大変分かりやすくまとめてあるおすすめの1冊!)
3)杉山明日香、受験のプロに教わる ソムリエ試験対策問題集 ワイン地図帳付き〈2020年度版〉、Little More
4)ワインとグルメの資格と教室2020 過去問題集&合格テクニック、イカロス出版
5)ワインテイスティングの基礎知識 別冊/認定試験二次攻略テクニック、新星出版、2019
6)ビアンカ・ボスカー (小西敦子訳)、熱狂のソムリエを追え!ワインにとりつかれた人々との冒険、光文社、2018 (普段本を読まない私が、2019年冬に倉敷の本屋さんでたまたま出会い一気読みし人生観を変えた衝撃本!生き方や外来診療にも良い影響を与えてくれる!)
7)Bianca Bosker、Cork Dork: A Wine-Fueled Adventure Among the Obsessive Sommeliers, Big Bottle Hunters, and Rogue Scientists Who Taught Me to Live for Taste (English Edition)、Penguin Books、2017 (文献6の原本、訳本があまりにも面白かったので、ついつい購入した!)
8)ワイン受験.com (8月中旬に存在を知った、受験対策や問題集が充実しているので興味がある方はまずこのサイトにアクセスを!私は、山崎和夫さんの出身が岡山県岡山市であることを知りその日に登録を決めた、問題集は「少なめ3問」がおすすめ!)
9)日本ソムリエ協会 (https://www.sommelier.jp/)
10)「SOMM」(2012) (このレベルで勉強できないが、学ぶ楽しさや取り組む姿勢は同じ!)
11)「SOMM INTO THE BOTTLE」(2015)
12)「SOMM3」(2018)
13)神の雫 (漫画:日本語版、英語版「THE DROPS OF GOD」、フランス語版「LES GOUTTES DE DIEU」、渡仏前の一読がおすすめ!)
14)Wine Folly (ソムリエの方から本を貸していただいた、サイトも充実している)

【1次試験】

 まず、本を3冊 (上記2~4) を購入。参考文献4で、2年前からコンピューターで行うCBT方式に変更され、今まで公表されていた過去の出題が非公表となったことを知った。「受験に成功するには」に書いてある、「受験に成功する人には、ある傾向があります。それは、目標が何であれ、それに対して集中して真剣に取り組み、なおかつ謙虚であり、決して諦めないことです。・・・、『必ず合格するのだ』というポジティブ志向を持つことを、どうぞ忘れないでください。」というアドバイスを心に留めた。「ワインの勉強」からは、「ワインとの付き合いは一生のものということ」、「まずはワインを幅広く、そして各項目を平均的に学ぶこと」、「成長していく人は広いヴィジョンを持っている」こと、そしてワイン以外の酒類からも問題が出ていることを学んだ。
7月中旬から約2週間:通勤のバスの中で、問題集500問に目を通す。答えは考えても全く分からないので、速攻で答えをみて雰囲気だけ把握した。
7/23:アルゼンチンの「トロンテス」を購入 (写真3)。バラ・ジャスミン・ゼラニウムの香りやテイストを3日続けて飲み、何となく特徴が分かった気がした (実はこの品種が本番で出題されて正解できた!→後述)。長期間準備期間があれば、フランス、ニュージーランド、アメリカ、オーストラリアの4か国のソーヴィニオン・ブランを「鼻と口が初め青草の香り、やがてライムエードのような香りと酸味をとらえるようになるまで (参考図書6の38p)」1週間飲み続けることをBoskerはすすめている。ちなみに、彼女は、「次の週は、ゲヴェルツトラミネール、その後はテンプラニーリョ・・・」とブドウ品種の経験値を高めていった。教本 (文献1) 届く (分厚い!、写真4)。
7/25:イタリアの語呂合わせ・地図 (写真5) 完成。

●写真3 Torrontés
●写真4 教本
●写真5 Noriko作イタリア地図に清が記入

7/31:参考図書2の「Check&Repeat」フランス・イタリア以外を学ぶ。会場を予約 (①8/29(土) 10:30、②9/5(土) 10:30)。早めに合格して、2次試験対策をするようなアドバイスがあるが、申し込みが遅かったので、1か月半は準備期間が必要と考えた。
8/11:語呂合わせの参考になる「メモリー・スポーツ」の番組をたまたま見て、場所と意外な組み合わせと流れで印象づけると良いと知った。
8/15:参考図書2の「Japan 日本」から本格的に開始 (最近は日本の問題が増えている)。
8/16:ワイン受験.comメールマガジンくるようになった。
8/19:スペインは、「州50%、品種30%に加えて、カヴァ・シェリーを学ぶべし」、と学んだ。
8/22:「料理とのマリアージュ」でワイナリーチェック (私は参考書に線を引いて満足するタイプ!) を沢山していたら腱鞘炎になった。
8/23:参考文献2の後半を一応終え、問題集再スタート。
8/26:試験日を、8/29から9/5の16:45に変更。
8/30:フランス一通り学んだあと、イタリアから (124〜317p) はポイントのみに変更。問題を繰り返し解くように心がけた。
9/4:参考書を一通り読み、問題も解き終えた。
9/5 (1次試験当日) :10:30から受験するも「不合格 (写真6)」。次女と会場近くで合流し、家でランチ。疑問に思ったこと (ポムロル・フロンサックの位置、東欧の国々の気候、日本ワインの定義、など) を確認の上、時間の許す限り地図問題と概要を繰り返した。とても暑かったのでタクシーで移動し、会場近くで参考図書2の「Check & Repeat」600個を確認した後、16:45から再受験し「合格 (写真6)」!!!!!! (地図問題はほとんど即答できた一方、全く分からない問題がたくさんあったので合格ラインぎりぎりだと思った・・・)。お世話になった方々に報告し、Norikoとpetitお祝いをした。
 「ある産地のことを調べると、ブドウのことだけでなくそこの人々や歴史、文化や食べ物も学ぶ。まるで世界を旅しているようだ」(参考映画10) と言われるように、この2か月弱の短期間で、今まで知らなかった国々やフランス各地を旅することができた。娘には、「パパ、アル中になっちゃうよ・・・」と心配されながらも、知的好奇心を刺激され生きるためのインスピレーションを得た新しい形式の旅体験は、この後さらに深まった。

●写真6 不合格→合格

【2次試験】

9/6:日仏整形外科学会のWeb会議に参加し、1次試験合格を報告。
 「傾向と対策」を学ぶ。50分で赤ワイン2種類、白ワイン2種類、ワイン以外の飲み物1種類が出題される。「外観、香り、味わい、評価、適正温度、適したグラス、デキャンタージュの必要性、収穫年、生産地、ブドウ品種」を選択肢から選んで、マークシート方式で回答する。ワイン以外の飲料は、選択肢の銘柄から1つ選択する。参考図書の「誌上テイスティング講座」で基本品種 (赤3種類:ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー (シラーズ)、白3種類:シャルドネ、リースリング、ソーヴィニョン・ブラン、+α) の特徴を確認。
 酒屋のロゼコーナーで今まで意識したことのなかった「Tavel」が目に入り、日本ワインの「Sur Lie」が認識できた!カベルネ・フラン (当日出題されたが正解できなかった品種!) やニュージーランドとチリのソーヴィニオン・ブランを購入した。
9/8:参考図書5の別冊/認定試験二次攻略テクニックは大変参考になったが、品種の配点が高くなっている最近の傾向が反映されていなかったので、出版会社に電話して2019年発行のものが最新であることを確認した。
9/10:ソムリエのるみさんが、単一品種のワインボトル数本、参考図書14他ワイン関連の本、以前ご自身の勉強に使った香りのセットなどを用意してくださった。Merci bien!!
9/11:2次試験は、164点満点で、1つのコメントは5分以内で解答すべきと学んだ。品種によって、甲州→丁字、リースリング→菩提樹/リンゴ、シャルドネ→新樽/樽香/白桃/ヘーゼルナッツ/アーモンド、ソーヴィニオン・ブラン→ヴェルヴェーヌ/メロン、ミュスカ→マスカット、ゲヴェルツトラミネール→ライチなどと特徴があることを知る。ワイン受験.comでアドバイス動画を見る。白軽め、白重め、赤軽め、赤重め (写真7) と大まかに分けて考え、それぞれの模範解答があることを知った。ブラインド・テイスティングのすすめ (小瓶法)、合格者の体験談とアドバイスが大変参考になる。
9/12:動画 (ワイン以外のお酒) を一通り見てカクテルは出ないことが分かった。キュラソーは、コナンのキャラクターに登場することを次女が教えてくれた!
以後2次試験当日までの1ヵ月間は、試験に使用される国際規格のテイスティンググラス (INAOグラス、ISO規格) ×6を購入し、試験にでると言われる2〜5千円だいのワインを小瓶法や私が小瓶法をアレンジした「ペットボトル法 (写真8)」にてブラインド・テイスティングを繰り返した。

●写真7 模範解答の一例 (赤重めの「香り」)
●写真8 ペットボトル法 (清考案、水やお茶など匂いの残りにくい液体のボトルをしっかり洗って空気がない状態でキャップをする、小瓶より空気の調整が容易! Let’s try, using various bottles!!)

9/18:ロゼ (写真9) や泡も出る可能性があること、ガメは「若々しい」「第2アロマが強い」という特徴があるため飲んでおく方がよいことを知った。
9/23:「当てにいくより、寄せにいく」ことが大切であることを学んだ (参考図書4)。スピッツの小瓶をスーパーで購入 (写真10)。テイスティング・コメントをプリントアウトして、本番に近い形で行うようにした。

写真9 今後の試験に出るかもしれないロゼワイン、左からWhite Zinfandel (ジンファンデル)、Rose d’Anjou (グロロー主体)、Tavel (グルナッシュ主体) (青枠は山崎和夫さんおすすめの小瓶法)
●写真10 経験値を高めるワイン以外の飲み物

9/24:イタリアレストラン「Bacco」の女性ソムリエに相談。白2種類 (ドイツ・モーゼルの甘いリースリング+ナパのシャルドネ) +赤4種類 (ピノ・ノアール、長野のメルロー、シチリアのシラー、フランスのメルロー65%) をブラインドで体験させていただき、グラッパもいただいた!彼女は、教本でなく問題集で勉強されたとのこと。また、当日はうどんを早めに食べてからカジュアルな服装で参加されたそうだ。
 焼酎は、芋・麦・米・泡盛を確認すべし!黒糖焼酎「れんと」も購入して少し試飲。
9/30:9月いっぱいは試験のためでなくいろいろな品種をチャレンジし、10月になったら試験対策として「基本3種類ずつ6種類」に専念すると決めていた。9月最終日、マスカットベリーAの泡とポルトガルのトゥ一リガ・ナショナル (キムチなど辛い食べ物に合うワインがなかなかないが、この品種やガリオッポ、冷えたリースリングは辛いものとのマリアージュ良い!) を楽しむ。スクールに行っていないと自分の飲んでいるワインをどう評価してよいか分からないため、山崎和夫さんのサイトでテイスティング・コメント付きのワイン3セット (9本) 購入!
10/9:テイスティング上達のコツ→「ブラインド」で「並べて比較」することが大切。一次試験の合格率は38% (整形外科専門医試験よりかなり難しい!) だが、二次試験合格率は77%で、4回まで続けて受けることが可能なので、「77%×4=99.7% (つまり、ほとんど全員!)」、あきらめずに受け続ければ合格できるはず! (山崎和夫さんの動画)
10/11 (前日):夜、本番と同じ形式で行うも「白2・赤2・ワイン以外」の5種類を全問不正解・・・焦って夜な夜ないろいろ確認飲み (試験当日の朝は普通に起きることが出来なかった)!
10/12 (2次試験当日):ホテルグランヴィア岡山で受験。セーターなど寒さ対策をしていった。受験会場では、私が一番後ろの席であった (1次試験に受かったのが1番遅かったことを意味する・・・)。

<2次試験の詳細>
 白1つ目 (ワイン①):2019年のトロンテス→もちろんアルゼンチンだが「白は平均2年前」というデータから離れられず2018年にマーク。
 白2つ目 (ワイン②):2018年フランスのシャルドネ→自信を持ってリースリングと解答 (年と国は当たっていたため大きく加点!)。
 赤は4番目のワインが明るい色で答えやすいと考え先に解答 (そこが大きな間違いであった!)。
 赤1つ目 (ワイン④) :2018年ニュージーランドのピノ・ノワール→以前飲んだことがあるピノ・ノワール (チリのアコンカグア) と明るい色が似ていたため新世界と判断。年は若いと思ったが「赤は平均4年前」というデータに引きずられ、2年若くする勇気はなく2017年に。国は、オーストラリアとニュージーランドで迷ったが、オーストラリアではないと考えニュージーランドを選択!
 赤2つ目 (ワイン③) :2018年フランスのカベルネ・フラン→タンニンが強烈だったため2017年オーストラリアのシラーズと解答 (後で考えるとシラーズで黒くなく明るい色はあり得ないと思うが、その時は「外観で判断してはいけない!」という教えと、すでに酔っており時間もないため即答で不正解・・・)。
 このワインの解答をしようとした時に、ワイン1つ分すべて違う場所にマークしていることに気づく。かなり動揺したが、まだ10分くらいあったので、「気づいてラッキー!」とpositiveに考え、マークシートを一問分全部写した上で間違っているところを消してやり直した。マークシートの練習もしておくことをおすすめする!
 ワイン以外:「ラム」は、「マール」と迷った上で「ラム (購入して飲んでいたが少し甘い印象があった)」ではないと考え、「スコッチ」だけ違和感を覚えながら、「スコッチ・ウイスキー」を選択。
 「ワイン以外は、アルコール濃度が高いことが多いため、ワインの解答がすべて終わってから飲むべし!」、という教えを守ったが、マークシート間違えが響いて、考える時間は、2〜3分しかなかった。迷いながら、白・赤ワインはすべて飲み干した。私は、日本ソムリエ協会の用意してくださるワインはおいしいので、すべて飲む!と決めていた。ちなみに、今年はコロナ対策として、飲んだワインを吐く入れ物はなしとなっていた。また、終わってから他の受験者のテーブルを見ると皆さん半分くらい残されていたので、マークシートミスをしないためにはそれもありかもしれないと反省した。選択肢に含まれる国や品種の数が、例年よりかなり増えていた。
 自己採点の合計では、山崎和夫さんの基準で、24点の加点が得られた (写真11)。

●写真11 2次試験の答え合わせ

【合格発表】

10/21:朝Norikoが、ぶどう (瀬戸内ジャイアンツとシャイン・マスカット) を出してくれた。金木犀の香りを感じながら通勤。合格発表にて名前あり! (最初、「アオキ」多くて分かりにくかったので受験番号を何回も確認)。Norikoに電話で報告「そうだった!忘れてたわ・・・おめでとう!!!」

【学んだこと、そして今後】

 合格発表までの間に、参考図書6を読み直した。以前読んだ時には、ストーリーに魅せられて一気に読んだが、読み返すと、新しい気づきがたくさんあったので引用する。
1)血に次いでワインは人間の身体の構成要素を含む最も複雑な母体 (マトリックス) なんだ (9p)
2)価格やブランドについて外部の雑音を受け流して、感覚を正確に捉えるために自分を無にすること。それは私たちのだれにでも可能に思えた。ふだん見過ごしている感覚へと波長を合わせることで豊かな体験を享受できるのだ。私も真剣にやってみようと思った (21p)
3)味わうということは、単に人生を堪能することの決まりきった比喩ではない。・・・良い味を味わうことは、よく生きることであり、自分自身を深く知ることであった。だから、よく味わることは、食用にするもののなかでもっとも複雑なものから始めなければならない—そう、ワインから。(23p)
4)マスター・ソムリエに関しては、「毎年200人が受験し、95%が落ちる。マスター受験者は試験までの年月、平均すると2万本以上のワインをテイスティングし、1万時間勉強し、4千枚以上のフラッシュカードを作り、・・・。(64p)
5)いわば、舌の筋トレ (69p)
6)「ワインが人生を変えることもできる」、「ぼくの人間性をいくつかの面で変えてくれる」(79p)
7)味によく注意していること、ワインのメッセージをどう聞くかを学ぶことは自分の周りのすべてに心を開いていることによって始まる」、「どこにいても新しい経験を受け入れる練習をする (97p)
8)「ワインを飲む目的は何かというと、匂いを楽しみたいからだ」、味とはほとんど匂いで・・・ (143p)
9)ワインの専門知識の習得は、ベンチプレスを持ち上げて鍛えることよりも新しい言語をピックアップするのに似ている。・・・概念的知識を広げることによって学ぶのだ (169p)
10)よいワインは変化だ、ワインは周囲の世界と自分との関係を変化させ、人生観をも変化させる (219p)
11)「ひと口飲んで、2口目を飲みたくなること」・・・「良い」ワインの明確な定義・・・とてもシンプル (291p)
12)私たちはワインを味わうとき偉大さを知るのだ。そしてそれは記憶として生き続ける (293p)
13)完璧な動き:余裕、エレガント、優雅、本当にソフト (外来診療でも参考になる!)
14)同じワインを二度飲まない (417p)
15)品種:ケナール、ヴィオニエ (423p)、リースリング (424p)
16)人生の「意味を付与し直す」・・・「人間としての在り方を変えるでしょう」(437p)
17)ソムリエのように脳を点火させるにはどこからスタートするといいだろう・・・感覚の記憶を蓄積することから始めなさい。あらゆる匂いを嗅いで、それに言葉を付与すること。(440p)
18)ブラインド・テイスティングにとどまらず、人生のほかの分野に吹き込む新たな落ち着きと自信がついていたことに気づかされた。・・・どんな食べ物を食べるべきか選ぶ能力は、利いた風なことを言うと、ほかのさまざまな永続するものについてもあなたが勇気と手際の良さでもって選べるようにするだろう・・・ムシン、あるいは「ノー・マインド」という禅の概念をしっかりつかんでいた (442p)
19)ワインに何かを感じ、あなたの諸感覚を解放することは、ただ注意を払うことによって始まる。そしておいしく楽しく味わうことだ (445p)。
20)この冒険を経た著者の一般人に対する思いは、すべての人がワインに宿る魂を発見する能力を持っているのだから、味わうのに特別な感覚はいらない・・・楽しむ心で飲めばいい。・・・よく味わって楽しむこと。(452p)
 これらのメッセージの数々は、一人の人間としてどう生きていくかという根本的な問いを投げかけてくれる。

 その後、田崎真也さんのサイン入りの証明書 (写真12) とバッジ (写真13) が届いた。
Norikoは、イエーガー・マイスターを「養命酒みたいで体に良い感じ!」とコメントし、クレム・ド・カシスなども含めて、我が家の食後酒の幅が広がった (写真14)。

●写真12 田崎真也さんのサイン入り認定証
●写真13 バッジ
●写真14 右上からラム、イエーガーマイスター、クレム・ド・カシス

 私自身も、これらのことを意識して過ごした日々のおかげで、今までとは違う景色が見えるようになった。具体的には、1) すべての食事の外観・香り・味わいを意識して生活するようになったこと、2) 金木犀の香りが例年より遠い距離から強く感じられること、3) 花を見た時にワインのイメージが連想できるようになったこと (写真15)、4) リースリングやヴィオニエの多様性や飲んだことのない品種に対する好奇心でわくわくしていること (今日はイタリアのトレッビアーノと南アフリカのピノ・ノワールを飲みながら原稿の最終チェックをしている)、5) 外来診療において事前準備を十分にした上で、一度「先入観」を捨て「無心」になり、問診・触診などをきちんと行い、そして自分で考えることの重要性を再認識できたこと、6) 当直の際に、「Bushido」のCDを繰り返し聴くことが多かったが、最近は、参考サイト14の動画を見て学ぶ時間が増えつつある、などである。

●写真15 同じ花の季節による変化 (左から夏→秋→冬)

 今後は、日仏整形外科学会の広報委員として、ワインの魅力・多様性 (写真16)、ワインに関する英語やフランス語の紹介などをINFOSやリニューアル予定のホームページの中で皆さんにお伝えしていきたい (「清のワイン奇行 (仮題)」。
 また、今後の日仏整形外科学会はもちろん、2021年4月岡山大学尾﨑教授主催の腫瘍の国際学会in岡山、2021年12月に予定されている日本小児整形外科学会in岡山、2023年の日整会by尾﨑教授などにおいて、皆さんと濃いめにソーヴィニョンなacademic talkが安全にできることを楽しみにしている。
 海外からのゲストをおもてなしするために、フランス語や英語に接する時間を確保している。2021年1月に高2の娘とtogetherに受験した英検準1級の1次試験はなんとか合格したので、現在、2次試験の対策をしている。ワインに含まれるポリフェノールの力を借りながら自己研鑽を続け、将来はメモリー・スポーツのシニアの部に参加したいと考えている。
 今回のワインエキスパート受験に関して、たくさんの人に感謝したい。受験を提案し、日々問題をクイズ形式で出し、苦手な品種を分析しながら経験値を上げてくれたNoriko、リビングで寝ている私をあの手この手で起こすなどあたたかくサポートしてくれた娘Amica (杏美花) &Amore (紅杜玲)、きっかけを作ってくれたDr.岡&Kazuo、たくさんのアドバイスをいただいたソムリエのお二人、ソルト・リックのマスター、そして、約7000年の間ワインに関わってきた全ての人々に感謝したい。
 Merci beaucoup beaucoup!!!

●写真16 第17回日仏整形外科学会 (岡山→直島) で試みたワインの多様性

まとめ

1)整形外科医は、飲食店での勤務経験がなくても、ワインエキスパートの試験を受けることができる。
2)地方に住んでいても、短期間であっても、家族やワインに詳しい友人、参考書やサイトの力を借り、集中して学ぶことにより合格は可能である。
3)ワインエキスパートの試験を通して、そして、特別の理由をもってワインをテイスティングすることによって、単にワインにとどまらず、生きる上でのパワー (感じ方・考え方・表現の仕方・楽しみ方など) が得られる。