股関節外科医のパティシエ留学記

市立秋田総合病院整形外科 藤井昌

Bonjour! 市立秋田総合病院の藤井昌と申します。私は秋田大学整形外科の医員として勤務していた2019年11月から、海外留学の機会をいただきました。同門の上司で、股関節の指導をしていただいていた木島泰明先生がフランスに留学されていたこともあり、前方アプローチによるTHAの研鑽を積んでおりましたので、現地で源流の手術を学ぶことになりました。多忙な業務の中での渡仏準備は困難を極め、留学先とのやりとりやビザ取得などについて木島先生ご指導のもと、エージェントと何度もやりとりしながら手続きを進めていきました。その中で、順天堂大学の本間康弘先生や済生会横浜市南部病院の石田崇先生の多大なるご協力をいただき、なんとかパリにたどり着くことができました。最初に訪れたのは、HENRI MONDOR HOSPITALでした。ここでは股関節外科というよりは、外来や整形外科一般の手術を見学しました。医療制度の違いや手術手洗いした時のコミュニケーションなどに戸惑いながら、病院のレストランでランチにありつくのも必死な日々を過ごしました。HENRI MONDORL HOSPITALでの研修終了後の日程は、実はしっかり決まらないまま渡仏してしまったのですが、運よくClinique du SportとClinique Aragoにお世話になることができました。そこでは偶然同時期に留学されていた、慶應義塾大学の藤江厚廣先生にお会いすることができ、なにもつてがないまま見学に行った私に対して、交代で手術に入ろうとの提案をいただき、本当に良くしていただきました。Dr. Frédéric LAUDEとDr. Luc KERBOULLの手術を勉強できたことは、私の股関節外科医としてのキャリアに大きなプラスとなりました。さらにここでご紹介した本間先生、石田先生、藤江先生はいずれも他学ではありますがバスケットボール部の先輩で、帰国後も引き続き大変お世話になっております。バスケットボールを続けてきて、これほど良かったと思うことはありません。この場をお借りして深く御礼申し上げます。

前置きが長くなってしまいましたが、私のパリ留学における股関節修行は実はサブテーマで、本当の目的は一流のパティシエを目指すためのものでした。というのも、私の実家は秋田県で創業100年を超える和洋菓子店 (株式会社かおる堂) を営んでおり、美食の都パリのエッセンスを持ち帰ることに大きな情熱を注いでおりました (実際、フランス大使館に提出するビザ取得動機にも、長々とそのように書きました。見事に却下されましたが・・・)。医師としてパリに留学した中では、おそらく最も多くのパティスリーを訪問したのではないかと自負しています。そして今回、THAや骨切りなどのご指導でお世話になっている、静岡赤十字病院の西脇徹先生から、これからパリに留学する先生に有用な情報を提供してくださいとのお話をいただきましたので、留学記と名付けるほど大した内容ではありませんが、訪問したパティスリーのお話を報告させていただきたいと思います (役に立つかは甚だ疑問ですが・・・)。

私は5区のQuartier latinにあるアパルトマンに住んでおりました。家賃は高めでしたが、学生街ということもあり比較的治安が良く、夜間もたまに学生が騒いでいる程度でした。街を歩くと至る所にブーランジェリー (パン屋) やパティスリーが並んでおり、ウィンドウ越しに眺めるだけでも楽しくなります (Fig.1 a, b)。

Fig.1a
Fig.1b

小さくても古くから続くお店がたくさんあり、フランスの文化として根付いているのだなあと感じます。私は全くフランス語ができませんが、お店に入る時に心掛けたことは、英語を話したくなる気持ちをグッと抑えて、最低限、最初と最後はフランス語でコミュニケーションをとるということでした。まずはアイコンタクトと共にbonjour!何も買わなくて気まずく帰る時でもmerci, au revoir!数字くらいはフランス語で伝えられますよね。あとは会計の時、それまでもじもじしていたのに、キリッとc’est tout (以上です)、donnez-moi un sac, s’il vous plaît (袋をください) などと言うと、店員さんのプチ笑いが起こることがありお勧めです。

Maison GEROGES LARNICOLはメトロ4号線のOdeon駅近く、Saint-Germain大通りにあるチョコレートが有名なパティスリーです。動物やスポーツのボールなどのたくさんのチョコレートアートに目を惹かれますが、Bretagne地方発祥のクイニーアマンというお菓子が有名です。チョコレートも量り売りであまり高くないので、お土産にもいいかもしれません (Fig.2)。

Fig. 2

次にご紹介するのはご存じ、PIERRE HERME PARISです。市内には何店舗かありますが、6区のcaféが併設されている店舗に行きました。秋田のような地方都市ではなかなか食べる機会もありませんので、もちろんオーダーはIspahan。見た目もさることながら、ローズの風味、ライチの甘み、フランボワーズの酸味が織りなすハーモニーが素晴らしく、パリで生活する嬉しさをかみ締めました (Fig. 3)。Champs-Elysees通りにはコスメブランドのL’Occitaneとコラボした店舗もあります。ここのcaféのカウンター席ではパティシエがデザートを作る様子が見られますので、その技を盗みたい方にはうってつけです (Fig. 4)。天気が良ければマカロンをテイクアウトしてテラス席で食べるのもいいですね。

Fig.3
Fig.4

Champs-Elysees通りにはパリ4大老舗caféの1つと言われるFouqut’sがあります。映画にもよく使われていたそうで、赤い屋根が目立つためすぐに見つけられると思います (Fig. 5)。シャンパンとエクレアをいただきましたが、それだけで結構な値段です。雰囲気を楽しみたい方にはお勧めです。Fouqut’sのすぐ近くには、日本でも有名なLADUREEがあります。外観、内装が豪華で女性に人気がありそうな店構えですが、観光客が多く行列ができることも多いようです (Fig. 6)。

Fig.5
Fig.6

ヨーロッパ最大級のデパート、Galeries Lafayetteの中には、こちらもお馴染みのANGELINAがあります。買い物のついでに寄りやすい場所ですが、意外に穴場のようです。お約束のモンブランをいただきますが、とにかく甘くでかいです。層構造になっていますが、甘いクリームの中に甘いメレンゲという感じで、お供にエスプレッソは必須という感じです (Fig. 7)。どうやらフランスの栗は日本のものより濃厚な味わいのようです。おいしいですが完食後はしばらくいいかな、という気持ちになります。

Fig.7

私が最も行ってみたかったパティスリーは、パリ最古と言われるStohrerです。地下鉄駅で最も大きなChatelet-Les Hallesから歩いて数分の商店街エリアにあります。この店、創業はなんと1730年、日本では享保の大飢饉が起こっている頃に、フランス人はお菓子を食べていたのか!と思うと衝撃的です。フランス菓子の1つとして有名なBaba au Rhum (ババオラム:菓子パンに洋酒入りのシロップをつけこんだもの) が目当てで、私の実家の店でもSavarin (サバラン:ババとの違いは現代では形のみのようです) という名前で販売しておりました。肝心な味は、かなり洋酒が効いており、少なくともお酒が苦手な方には向かないかもしれません。食感は良く言えばしっとり、言葉を選ばず言えばびしょびしょで、好みがわかれるところかもしれません。とってもおしゃれな包装にいれて持ち帰ったのですが、石畳を走る自転車の前カゴのなかで箱が暴れてしまい、アパルトマンに着くころにはクリームが爆発しておりました (Fig. 8 a-c)。

Fig.8a
Fig.8b
Fig.8c

Lille発祥のMeertも1761年創業の老舗です。4区のLe Marais (マレ地区) というオシャレナなエリアにある小さなお店です。ここの人気商品はゴーフルですが、日本で食べる硬い食感のものとは一線を画すお菓子です。しっとりした生地の間にややシャリシャリしたクリームが挟まっています。いろいろなフレーバーがある上、1枚から購入可能なので、食べ比べて好みの一枚を探してみてください (Fig. 9)。

Fig.9

Stohrerと同じくらい興味があったのが、Place de la Concorde (コンコルド広場) 近くにあるTORAYA Parisです (Fig. 10)。日本の超有名羊羹がパリでどのように受け入れられているのか興味津々でしたが、夕方頃に訪れると超満員!parisien、parisienneが抹茶片手に羊羹をつついている姿には、和菓子の大きな可能性を感じました。パリ店オリジナルの商品も存在しますので、お土産にも喜ばれることと思います。日本つながりでいくと、日本最大の製パン企業、Yamazakiのパティスリーも出店しています。フランスではいわゆる日本の苺ショートケーキを見る機会は極めて稀です。もし日本の味が恋しくなったら、YamazakiのSALON DE THEに行ってみるのがいいかもしれません。

Fig.10

Saint-Germain-des-Prés (サンジェルマン・デ・プレ) には、M.O.F. (国家最優秀職人賞) を受賞した実力派パティシエのARNAUD LARHERがあります。ショーケース内はどれも鮮やかで、見た目も楽しむフランス菓子を象徴するようなものばかりでした。ここで購入したのはサントノレ (小さなシューを重ねてクリームでまとめたもの) とフランボワーズのケーキです (Fig. 11)。1つのケーキの中でも色や食感の違いを堪能できる素晴らしいお菓子でした。

Fig.11

最後は、実力派日本人パティシエが手掛けるMORI YOSHIDAです。ナポレオンの墓があることで有名なLes Invalidesの前に広がる芝生広場に立ち並ぶ、高級住宅街の中に店があります。店構えもスタイリッシュで、ショーケース内には芸術的なお菓子が並んでいますが、発色しすぎていないところに日本人ならではの奥ゆかしさも感じます。人気のお菓子はモンブラン、ベージュ、M (エム) などで、重厚な見た目ですが軽く食べられる絶品です。4種類ほど持ち帰りましたが、またしても石畳にやられてしまいました (Fig. 12 a, b 学習しない・・・)。

Fig.12a
Fig.12b

この他にも美味しくてカラフルなプチシュー (Fig. 13) や絶品のタルト・シトロンなど、紹介すればキリがありませんが、誌面の都合でこれくらいにさせていただきます。

Fig.13

ポイントをまとめますと、

・挨拶はフランス語で
・お菓子はかなり甘いものが多く、エスプレッソ必須
・自転車×石畳に注意
・フランス菓子の味だけではなく、見た目や食感、さまざまな素材も楽しんでみてください

です。
皆様のフランスでのご滞在が充実したものになるようお祈りしています。Bon voyage!
(2019年末時点での情報になります。ご了承ください。)

コメントを残す