日仏整形外科外学会を開催して
第10回日仏整形外科学会会長
青森県立中央病院 院長 原田 征行
第10回日仏整形外科学会は平成14年10月12日(土)に青森市のアップルパレス青森を会場に開かれました。第17回日本整形外科学会基礎学術集会の第2日目に設定しました。基礎学会の参加もかねて日仏学会に参加された方も多かった様です。幸い当日は好天に恵まれました。みちのくの丁度たけなわな秋の紅葉、リンゴの鑑賞も出来たものと思います。
学会はフランスから本学会の生みの親でもあります、リオンのPicault先生が特別講演をしていただきました。演題はThraco-Lumbar Scoliosisで長年の側腕症の手術的治療成績を話されました。Zielke法の第一人者として大変興味深く拝聴しました。パリからはCatonné先生もお招きしDistal femoral osteotomy in adults で先生のアイデアに富んだ新鮮な内容の講演に感激しました。
一般演題の7題もそれぞれに立派な内容でフランスからも多くの質問があり活発な討論が交わされました。最後に恒例のフランス留学報告が行われ、若手の学徒の熱心な研修成果を報告されました。報告者は八戸市民病院 藤井一晃氏、岐阜大学医学部整形外科 宮本敬氏、九州がんセンター整形外科 久我尚之氏、千葉県済生会習志野病院 鳥飼英久氏、三重大学医学部整形外科 松峯昭彦氏の7人でした。今後の日仏整形外科の架け橋となりさらなる発展の礎となることを期待しています。
学会参加者は約50名でした。昼休みには立食でしたがビュッフェスタイルで懇親を深めることが出来ました。
尚、リオンから小森さんを招待しました。本学会の発足当時から、また訪仏の際には日本人の多くがお世話になってきた事に対する感謝の気持ちでお招きしました。大変喜んで頂き、お招きした甲斐ががあったと思っています。
最後になりましたが、本会の設立からの世話人でありました管野先生がお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。
充実した内容だった第10回日仏整形外科学会
七川歓次
日仏整形外科学会は大阪や東京あるいはその近辺であることが多く、今度ははじめて青森市での開催となり、随分遠いところなので一寸心配であったが、単なる杞憂に終って、嬉しく思っている。学会は充実していて、面白く、それというのも、原田征行会長がもともとフランス整形外科となじみが深かったことによるものと思われる。開会の挨拶で、原田先生が、昨年日整会名誉会員になったPicault先生と長年親交があったことを知った。また、弘前大学整形外科からは多くの同窓生が日仏青年整形外科交換研修医としてフランスに行っているので、原田先生に本会をお世話戴いたのは、またとない機会に恵れたといえるのではないかと思っている。
特別講演が2つあり、一つはPicault先生のthoracolumbar and lumbar scoliosisで、治療法の歴史的な発展を辿った後、手術治療としては、10年以上のfollow upで、ZielkeのVDS technique (Ventrale Derotation Spondyrodese) の成績がすぐれていることを述べられた。
2つ目の特別講演はCatonné教授(Hôpital de la Pitié Paris)の成人でのdistal femoral osteotomyで、外反膝変形には大腿骨遠位に変形があるので、distal femral osteotomyが適応となり良い成績が得られるという。Catonné教授は日整会基礎学会の教育講演に招待されていて、私は聞けなかったが、抄録によると、骨の代替物質としてのmother of perlの実験成績がすぐれていたと述べている。Catonné教授は日仏整形外科学会に関心をもたれているようなので、これからの日仏整形に力になってもらえそうである。
話は飛ぶが、日整会基礎学会での会長講演としての原田先生の脊椎靭帯骨化症の成因に関する研究は、聞きごたえがあり、面白かった。もともと脊椎靭帯骨化症はフランスのエクス・レ・バンのForestier先生が本症を臨床的に一つのentityとして分離したもので、私には馴染み深く、ずっと関心を懐いてきた。今回OPLLについて、疫学から遺伝に至る幅広い研究成果が示され、各方面からの知見を総合して全体像を把握しようとしたもので、久しぶりに時間のかかる深い研究発表に接して感銘を受けた。この問題に関係のある演題が金井ゆりか先生ら(東邦大整形)から出ていて、興味深かった。それはOPLLにおける末梢リンパ球のanti-CD3 monoclonal antibodyに対する反応が、連続型では分節型よりも低いという成績である。これから両型の成立機転に差異があるのではないかという。
一般演題は何れも興味のそそられるもので、脊椎炎に対するinstrumentationを用いた治療(宮本敬ら、岐阜大整形)、高度骨破壊を伴う脊椎原発平滑筋肉腫に対するinstrumentationを用いた治療(久我尚之、九州癌センター整形)は困難な症例に対する手術成績を示していて示唆に富んでいる。腰部脊椎管狭窄症に対するModic分類はMRIでのendplatesに接する骨髄の変化の程度を見たもので、type 1から3まであり、固定術の適応はModic’s type 1分類としていて、この観点に興味をひかれた(油川修一、弘前大整形、JM Vitalボルドー大学)。
ハンソンフックピンの生体力学的検討(金子和夫ら、順天堂大、伊豆長岡病院整形)、悪性骨腫瘍関節外切除後のプロステーシスと腓腸筋手術による膝関節再建(小山内俊久ら、山形大整形)、肘部管症候群に対する小切除による単純神経除圧術(谷口泰徳ら、和歌山医大整形)の報告は術式に直結していて、日仏整形らしい演題であった。
日仏整形外科学会の特徴の一つである帰朝報告が5人の先生によってなされた。この報告会はいつも楽しみにしているが、フランスでの研修が今までの人生経験で最もインパクトのあるものであったとの感想を戴いたりすると、冥利につきる感じである。
今回は菅野副会長のご逝去を悼んで、黙祷を捧げた。同氏とともに歩み、同氏のご尽力で日仏が育ってきたが、一つのエポックを作ってくれたものと感謝している。
第10回日仏整形外科学会に参加して
ひがし整形外科 荒木 徳一
小林先生に御紹介いただき、1988年から89年にかけてリヨンのCentre des Massuesで研修をしたのが御縁でAFJO、SOFJOには第1回から都合のつく限りは参加させていただいています。開業などを理由にさぼったりしますと、すぐ小林先生に「お金もうけばかりしていないでたまには日仏に出てきなさい。」と言われてしまうので他の学会には出なくてもこの学会には日程を合わせて出るようにしています。
学会前夜、幹事の先生、フランス人講師の先生と弘前大学の関係者とで歓迎会が藤紀という割烹で行われました。青森の魚料理と日本酒によるお座敷での宴会で、途中、津軽三味線や尺八の生演奏がありました。20数年当地に住んでおりますがめったに生の演奏を聞く機会は無いので、フランスの先生達のことも一時忘れて聞き入ってしまいました。純和風の宴会でしたが、会話はフランス語、英語、日本語に一部津軽弁のとびかう国際色豊かな雰囲気で盛り上がりました。ピコ-先生、カトネ先生はお疲れの様子も見せず、2次会にも参加され年令を感じさせないパワーに驚きました。更に後でお聞きしたのですが2次会から夜中過ぎにホテルに帰ってから明け方までコンピューターでスライドの修正をされていたというのですからすごいですね、まったく。
さて、学会当日は秋晴れに恵まれ、この時期にしては気温も高めでした。これまで本学会は関西で開かれており、東日本、しかも青森県で開催されるというのは初めてのことでした。楽しみではありましたが、首都圏から遠いので参加者が少ないのではと心配していたところ例年程度の集まり具合でほっといたしました。
一般演題はフランスの研修先での仕事や、日本での経験、研究成果など色々な分野の発表がありました。普段脊椎以外の学会に行くことがないので新鮮な気持ちで聞かせていただきました。
ピコー先生、カトネ先生の御講演は我々日本人からすると症例数がケタはずれに多く圧倒されました。特にピコ-先生のお話は御自身の長い経験、いわば歴史を感じさせる内容に感動いたしました。
十数年前にリヨンに滞在したことのある私にとって、フランスで研修されてきた先生達の帰朝報告はいつも楽しみのひとつです。みなさんのお話を聞いているとその当時のできごとが鮮やかによみがえってきて、自分も一緒に研修を受けているような気になります。楽しいことばかりではなく、いろいろと苦労されたことも多いと思いますが、普段の学会発表とは違うどこか晴れやかな表情を見ていると充実した日々を過ごされたということがよくわかりました。
学会終了後ピコ-先生、カトネ先生、ジランさん、大橋先生を自宅にお招きしました。ピコ-先生と私の家族は十数年ぶりの再会で子供たちの成長した姿に驚いていました。また、カトネ先生の病院に横綱貴乃花が受診し、彼があがった途端診察台が壊れてしまった話など楽しく聞かせていただきました。写真は帰り際にカトネ先生がピアノの腕前をさっと披露された時のものです。学会での厳しい表情とはまた違う笑顔が印象的です。
また次回、日本の先生方、フランスの先生方にお会いできることを楽しみにしております。